最近は、海外でも日本の思想が大人気で、茶道や禅などに興味を持つ海外の方が増えているようです。
日本文化の奥深さを知る上でのキーワードが、「わび・さび」で、日本人の美学とされているんですね。
この「わび・さび」って、確かによく聞きますよね。
でも、よく聞くけど、人に意味を聞かれても説明が出来ない・・・
そんな言葉ですよね。
今回は、そんな「わび・さび」の意味について、迫りたいと思います。
侘しい・寂しい
わび・さびは、一つの言葉の様に使われていますが、別々の言葉です。
漢字で書くと、「侘(わび)」と「寂(さび)」です。
侘 びしいや、 寂 しいという意味ですね。
ちなみに、その意味を調べてみると・・・
- ひどくもの静かでさびしい。
- 心が慰められないさま。心細い。
- 貧しくてあわれなさま。みずぼらしい。
- つらく悲しい。やるせない。
- 当惑するさま。やりきれない。
- 興ざめである。おもしろくない。
【出典:大辞泉】
- 心が満たされず、物足りない気持ちである。さみしい。
- 仲間や相手になる人がいなくて心細い。
- 人の気配がなくて、ひっそりとしている。さみしい。
【出典:大辞泉】
どちらも、ネガティブな意味ばかりですね(笑)
それは、そうですよね、侘しいや寂しいをポジティブな使い方をする人なんて見たことありませんからね。
さて、このネガティブな言葉が、一体どうして「日本人の美学」と結びつくのか??
それを、じっくりと見ていきましょう。
茶の湯 の わび茶
わび・さびというと、やはり茶道が思い起こされます。
茶道といえば、裏千家や表千家に代表する、千利休が確立した茶の湯文化ですよね。
「わび茶」を極めたと言われる、千利休ですが、一体、わび茶とはどんなものなのでしょうか?
わび茶
わび茶は、室町時代後期に、禅僧で茶人でもあった村田珠光(むらた じゅこう)が、それまでの高価な茶碗などを使わずに、粗末な茶碗を使ったことが始まりといわれています。
「粗末な・・・」というところが、先ほど見た、「侘しい」の意味の3番にあった、「貧しくてあわれなさま。みずぼらしい」 というのに通じていますよね。
これを、弟子の武野紹鴎(たけの じょうおう)が体系化していきます。
そして、武野紹鴎の弟子が、あの千利休です。
利休が、わび茶の基礎を作ったといいます。
創始者が、禅宗のお坊さんでもあるので、仏教や老荘思想などが取り入れられたのでしょう。
わび茶って、ただ単純に、粗末な茶碗や道具で、お茶を点てればいいのか?
というと、そういうわけでは、ありません。
武野紹鴎が、わび茶の精神を表したものとして、次の和歌を挙げています。
藤原 定家
見渡しても、どこにも花や紅葉など華やかなものはない。 海辺には、ただ粗末な小屋があるだけだけど、秋の夕暮れのなんて美しいんだろう。
海辺の夕暮れなので、凪(なぎ)の状態で、静かな波の音だけが聞こえているのでしょう。
少し哀愁のあるような、しみじみと夕暮れを感じ入る雰囲気があります。
本当に、しみじみと人の心をうつものは、華美なものではないと、わび茶の精神を表していますよね。
次に、利休も、わび茶の精神を、和歌を例に挙げています。
藤原 家隆
春に、花が咲くことばかり待っている人に、山里の雪の間に見える春(若草)を見せてあげたいものだ。
たとえ周りは雪に覆われていても、実は、その雪の下には春の芽生えが。
花が咲く事を、春だと思っている人には一生分からない、本当の春がそこにあるということですね。
それが、わび茶の真髄(しんずい)ということなのでしょうか?
ちょっと、ここまでくるとかなり哲学的ですね(笑)
いずれにしても、「 わび茶 」は、華美や豪華さではなく、もっと自然や人の心に寄り添った、本当の豊かさを求めたものです。
わびの空間(お茶室)
お茶室って、狭いですよね。
四畳半や、三畳、中には二畳(一畳台目)なんていうものもあります。
飾りつけもほとんどなく、まさに、侘びています(笑)
しかし、実際、そこにいてお茶を点ててもらうために座ると、狭いどころか居心地の良い広さだということが分かります。
そして、静かで窯のお湯の音とか、炭のはじける音、お茶を点てる時の音が、気持ちよく響きます。
そこは、本当に、非日常の豊かな空間です。
これって普段の生活からすれば、不足しているから、気づけたことなんですよね。
もしも、部屋にテレビがあり、音楽プレーヤーがあったら、気づきません(笑)
この「不足・不自由」というのが、茶の湯の世界では、とても重要なキーワードです。
不足だからこそ、感じれる豊かさ、まさに「引き算」をしたら、豊かになれる世界があるということです。
普段、「豊か」さを求めると、何かを買って購入したり、着飾ったりと、「足し算」でばかり考えてしまいます。
珠光・紹鴎という人は、「引き算」で考える事ができた人、利休にいたっては、足し算も引き算も自在だったのではないのでは?と思えます。
まさに、雪の中に春を見出せる人だったのでしょうね。
わびは、何かというと・・・
不足の中で、豊かさを求める意識、 引き算をすることで、より大きな豊かさを見出すこと。
個人的な、解釈では、一歩踏み込んで・・・ 何ものにもとらわれない自由な心
そんなところではないでしょうか。
さて、ここまで、わび(侘)について見てきました、もう一つ、さび(寂)がありますよね。
次に、さびについて見て行きましょう。
さび(寂)とは
「さび」とは、時間と共に劣化をしていくさまを表した言葉です。
金属が錆(さ)びる、錆ともつながるようです、経年劣化のことですね。
実は、武野紹鴎や千利休の時代の、茶の湯に関する文献には、この「さび」という言葉は登場しません。
この言葉は、江戸の中期以降に、茶の湯の美の表現として、「わび」とセットで使われるようになったようです。
「さび」は経年劣化の事と書きましたが、ただの劣化が、日本人の美意識のはずがありませんよね(笑)
そこに美しさがなければいけません。
実は、この「さび」については、「わび」とは違って、海外の方も簡単に理解することができます。
寂 は、錆びにも通じると言いましたが、銅が錆びると「緑青(りょくしょう)」といって青緑のキレイな色になります。
「自由の女神像」などが、まさに緑青が出ている状態です。
日本だと、鎌倉の大仏がそうです。
経年劣化ではなく、経年したことで生まれる美しさですよね。
風情や味があるという言い方もします。
例えば、ジーンズ。
これなんかも、いかにも「新品おろしたて」というよりは、すこし使った感じがあるほうが、味がありますよね。
革製品にも、同じ事がいえるかもしれません。
こういった、時間とともにでる味わいや風情を「さび」と呼びます。
さて、「わび」と「さび」についての、説明は以上です。
でも、まだ疑問が残ります。
「わび・さび」というように、これらの言葉は、セットで一つの言葉の様に使われています。
それは、どういうことなのでしょう?
わび・さびとは
なぜ、わびとさびはセットなのか?
その答えは簡単です。
「さび」の美しさを感じるには、「わび」の心が無ければ感じることができないからです。
わびの心は、不足に豊かさを見出せる心、あるいは、何ものにもとらわれない自由な心、そういった、固定観念から解き放たれた心が無いと、さびたものの美しさが見えてきません。
だから、わびとさびは、セットなんですね。
まとめ
(侘 ・ 寂)
わび
不足の中で、豊かさを求める意識
引き算をすることで、より大きな豊かさを見出すこと
何ものにもとらわれない自由な心
花をのみ 待つらん人に山里の 雪間の草の 春を見せばや
藤原 家隆
※ 千利休が、茶の湯の真髄を言い表しているとして挙げた和歌
あとがき
わび・さび については、色んな方の解釈があると思います。
また、利休の挙げている歌の解釈も、様々です。
ここで、ご紹介した、わび・さびで、特に、わびについては、筆者の自論も入っています。
やはり仏教や老荘思想といった道教にも通じる世界観があるので、単純ではないですよね。
それが何かを求めるからこそ、茶道と道がついた芸事になっているんですよね。
今でこそ、お茶室が美しいと思ったり、わびた茶碗などが美しいと思いますけど、それは美しいものっていうものが、既に植えつけられているからですよね。
つまり、「わび」の心を持っていなくても、美しいと思っているだけですよね。
恐らく、現代に利休がいたら、またとんでもないものでお茶室を作ったり、茶道具を用意したりするんじゃないでしょうか?・・・
本当の、わびの心があると、現代はどの様に映るのでしょうか?
利休という人が、現代では、どういったものを雪の中から、見つけるのか、とても興味がありますよね。
単なる、常識破りでは、ただの変わり者で終わってしまったかもしれませんが、そうではなくて、誰も気づけない美しさに気づけるという感性がすごいですよね。
なんだか、最近、「面白い」とか「美しい」とか、はたまた「美味しい」ということまで、ガイドブックや、情報サイトで、星がいくつついてるとか、口コミの評価が高いとか、人の評価で判断している自分がいます(泣)
「わびの心」とまでいかなくても、せめて、自分の感性で日々暮らしたいものです。
コメント
茶道の成り行きを分かり易く教えて頂き有難うございました。侘び寂について想いを馳せながら、美しさをみるのに己の謙遜の欠如を改めて気付かされました。
KEN様
すごくわかりやすい解説がされていますね。有難うございます。
こちらの本にも、わびさびについて、かなり詳しく解説してあります。
↓
『侘び然び幽玄のこころ』森神逍遥著。
専門的で難解なところもありますが、西洋にもある侘びとか、とても興味深く読めます。
宜しければ、御参考までに。
ご一読を!