「 見返り美人図 」
日本画の女性といえば、真っ先に思い出す名画ですよね。
海外でも人気の高い絵画なんだそうです。
日本美術関連の本や雑誌などの表紙を飾ることも多い絵ですよね。
でも、この絵って
「見た事はあるんだけど・・・」
絵の名前や、作者などが、よく分からない絵ですよね。
この絵の作者は誰なのか?
クイズ番組でも、よく使われています(笑)
よく目にして知ってはいるけど、それがどんな絵なのかは、よく分からない・・・
そんな感じの絵ですよね。
今回は、そんな「見返り美人図」について、堅苦しくなく、ゆる~く解説したいと思います(笑)
見返り美人図
さて、まずは、見返り美人図を実際に見てみましょう。
どうですか?
この絵って、好き嫌いがすごくはっきり別れる絵ですよね。
美人画なのに、あまり美人ではないなんていう声も(笑)
昔と今とでは、美的感覚が違うのかもしれませんね。
でも、着物のは本当に鮮やかで綺麗ですよね。
誰が、いつの時代に作ったのか、この絵について少し詳しく解説していきます。
菱川師宣の浮世絵
この見返り美人図の作者は、菱川 師宣(ひしかわ もろのぶ)(1618-1694)です。
江戸時代の初期に活躍した「浮世絵師」です。
浮世絵師というと、葛飾北斎や歌川広重が有名で、菱川師宣という名前は聞いた事がないかもしれません。
でも、実は、菱川師宣は、最初の浮世絵師 と言われているんです。
浮世絵というと、「版画」のイメージがありますが、実は版画だけとは限りません。
浮世絵は、あくまで浮世(うきよ)を描いた絵です。
浮世とは、過去でも、未来でもない、今現在の世の中のことを指しています。
今現在、流行のファッションや、トレンドなどを、現代であればテレビや雑誌とメディアを使って伝えることを、当時は浮世絵で伝えていたんですね。
見返り美人図は、菱川師宣が筆を使って書いた肉筆の浮世絵です。
浮世絵で、人物画というと、東洲斎写楽などの歌舞伎役者シリーズや、喜多川歌麿の街の有名な美人のプロマイド的なものがあります。
さて、菱川師宣の見返り美人図のモデルさんも、街の有名な美人さんなのでしょうか?
ファッション誌?
喜多川歌麿の美人画「寛政の三美人」を見てください。
これって、その人の名前がちゃんと書かれていますし、やはり顔を中心に描いていますよね。
肖像画として描いているので、当然ですよね。
菱川師宣の見返り美人は、名前も無いですし、ポーズからして、どうみても肖像画ではないですよね。
この絵は、別に誰か特定の人を描いたのではなく、ただ単に、当時のファッションを描きたかっただけなんです。
もう一度、見返り美人図をよ~く見てください、着物や髪型を見てくれ!と訴えている感じがしてきませんか?(笑)
ムリなポーズ
このポーズは、明らかに背中を見せようとしていますよね。
さて、ここでより深くこの絵を知っていただくために、一つ実験してみましょう。
実験といっても簡単です。
この見返り美人図の、ポーズを真似してみてください。
鏡で姿を映して、なるべく正確にお願いします。
どうですか?
実は、このポーズ、かなりムリがあります(笑)
首をあの位置に持っていくのは、人間には不可能ですよね。
菱川師宣記念館というのが、千葉県の房総にあるんですが、そこに、見返り美人のブロンズ像があります。
正直言って、かなりムリな姿勢になっています。
それでも、やはり絵の様には、首が回りません、絵の通りにしたら、もはや人間には見えないからなんでしょう・・・(笑)
さて、それでは、もう一つ実験してみましょう。
今度は、この絵から、顔と頭を隠してください。
どうですか?
ただの後ろ姿になって、印象がガラリと変わりませんか?
着物や髪型などのファッションを強調するイメージが消えて、ただの街歩きの女性の後姿になっています。
あの横顔があるだけで、着物や帯、そして髪型といったファッションが目に入ってきて強烈な印象を与えるんですよね。
実は全て計算?
間違いなく作者の菱川師宣は、このポーズがムリなのを知ってて描いてますよね。
作品の印象や意識付けのために、あえてありえない身体の構成やポーズをとらせる事は、古今東西どこの名画にも見られます。
そして、画面の上側に余白を多くとることで、絵を見る視線が自然に縦に流れるようにも、計算されているようです。
脚や腕などでつくる縦のラインが髪の毛から頭に抜けるラインにつながって、とても身体のねじれを感じさせない、すっきりとした印象を与えてくれます。
菱川師宣のこの「見返り美人図」
まさに天才的な計算で出来ている、構図、そしてポーズなんですよね。
これが、一目見ただけで、印象に残る、記憶に残る絵のからくりだと思います。
背景が何もないところに、女性の姿だけを描くというスタイルは、「寛文美人図」にならったと言われていますが、無背景のスタジオで写真を撮る、現代のファッションモデルの写真と同じですよね。
さて、そこまでして、着物や髪型といったファッションに目がいくようにしてくれているんですから、そのあたりも、少し解説をしていきましょう。
ファッション チェック!
結髪(けっぱつ)
下げた髪の毛の先端を丸めて結んでいますよね。
これは、「玉結び」と呼ばれる結い方です。
櫛(くし)も、色からしておそらく「べっ甲」ですよね。
高級品ですから、お金持ちの最先端の髪型なんでしょう。
また、前髪持ち上げ、頭の上で結っています。
これを「吹前髪」と呼びます。
菱川師宣の別の絵(右)を見ると、吹前髪の感じが分かります。
この玉結びに、吹き前髪は、元禄に入った当時、流行した髪形なんだそうです。
着物
着物は、まず鮮やかな赤ですが、これは正式には「緋色」(ひいろ)と言います。
大きな花の文様があると思います。
桜と菊で円を作っていますが、これは「花の丸」と呼ばれるものです。
これも、当時流行したものです。
帯
後ろを描いたからには、一番見せたかったのはきっと帯なんだと思います。
まず、その結び方が特徴的です。
「吉弥結び」(きちやむすび)という結び方です。
名前の由来は、当時の歌舞伎役者で女形の上村吉彌(かみむら きちや)が舞台で
使っていたところ、人気に火がつき流行となったようです。
歌舞伎のスターは、当時のアイドルです。
真似するところは、今も昔も変わりないんですね(笑)
ちなみに、上村吉彌は、今でも、きちんと受け継がれています(屋号は美吉屋)
最後に、帯の柄です。
この文様、面白いんですよね、三菱の様な文様ですよね。
三つ柏なのか、ちょっと変り種の輪違い麻の葉文様、あるいは変形七宝つなぎ?
ちょっとよくわかりません・・・・勉強不足です^^;
他が、全て最先端の流行で固めているので、 この帯の柄は、きっとアヴァンギャルドだったのではないでしょうか。
まとめ
菱川師宣(ひしかわ もろのぶ)作
1618-1694
最初の浮世絵師と呼ばれる
浮世つまり過去でも未来でもない、現在の社会や風俗について描いたもの
- 見返り美人図は、菱川師宣の肉筆による浮世絵
- 江戸‐元禄の前衛ファッション(髪型、着物、帯)を描いている
- 無背景の余白の構図や、女性のムリなポーズなどは見せるための計算
あとがき
この絵は、東京国立博物館が所蔵していますが、数年に一回といった頻度でしか展示されません。
ただ、浮世絵などの展覧会があると、貸し出されたりするので、見かけるチャンスはあると思います。
でも、やはり見るのなら東京国立博物館が一番いいでしょうね。
他の、浮世絵や絵画との比較も出来るし、着物や櫛や笄(こうがい)、かんざしといった小物なども、実物が多く展示がされています。
色んな視点で、江戸の当時を思い浮かべる事ができます。
是非、チャンスがあれば実物を見てみてください。
コメント
見返り美人って、菱川師宣が書いたんですね!
他の作品も見て見たいな〜
そうなんです、菱川師宣なんですよ。
一度見たら忘れられない絵ですよね、