日本画が見直されていますね、展覧会でも人気になっています。
中でも、「琳派」(りんぱ)は、雑誌や、テレビなどでも、よくとりあげられます。
国内だけでなく、海外でも琳派は評価の高い絵画なんですよね。
フェルメールやルノアールといった、世界の巨匠の絵画もいいけど、やっぱり日本人としては、いい日本画は、しっかりと見ておきたいもの。
でも、琳派って、それ以外の日本画と、一体何が違うんでしょうか? そう言われても、簡単に、スッとは答えられないですよね。
今回は、そんな琳派の特徴について、せまりたいと思います。
琳派は絵画の特徴だけでなく、一派としても面白い特徴を持っているんです。
琳派とは?
琳派の特徴には、絵画の特徴だけでなく、まずその一派そのものの成り立ちに、他とは違う面白い特徴があります。まず、「琳派」という流派の成り立ちについて、説明をしたいと思います。
このことを知ってから、絵画の特徴に入ると、その面白さが、より際立つと思います(笑)
琳派と他の派の違いって?
日本画で「流派」というと、狩野派を思い浮かべる方も多いと思います。狩野永徳の「唐獅子図」など、一度は教科書などで目にしたことがあると思います。
また、狩野探幽も、よく展覧会が開かれますよね。
さて、この狩野派は、狩野家一族で代々引き継がれている絵師の家元です。
茶道の千家などと同じですよね。
他にも、大和絵で有名な、土佐派がありますが、ここもやはり、家元制です。
ところが、琳派は基本的には、こういう家元制ではありません。
そもそも、琳派という名前を付けたのも、後の人々で、本人たちが「自分は琳派です」と名乗っていたわけではないんです。
一体どういうことなのか? 詳しく見ていきましょう。
私淑(ししゅく)でつながる
私淑(ししゅく)という、言葉をご存知でしょうか?私淑は、次の様な意味を持つ言葉です。
私淑 (ししゅく)
弟子になったりして直接教えを受けるのではなく、心の師 として尊敬し、模範などを通して学ぶこと。
琳派は、実はこの「私淑」で江戸時代、前期・中期・後期とつながった派です。弟子になったりして直接教えを受けるのではなく、心の師 として尊敬し、模範などを通して学ぶこと。
つまり、琳派という一門があって、そこに入門して絵を習い、また教え、連綿と伝えていったのではありません。
先人の描いた絵や技術にインスパイア(感化)されて、自分の画風に取り込んでいったものが、脈々とつながったということです。
その中心となる、代表人物が次の三人です。
- 俵屋 宗達(たわらや そうたつ)
- 尾形 光琳(おがた こうりん)
- 酒井 抱一(さかい ほういつ)
この3人、実は私淑を裏付ける強烈な証拠があります。
それは、俵屋宗達が描いた、風神・雷神図屏風を、尾形光琳も酒井抱一も描いています。
(ちなみに、酒井抱一の弟子の、鈴木其一も描いています)
しかも、単なる精密な模写ではなく、光琳らしさ、抱一らしさが、そこに現れている、オリジナル作品と言えます。
尾形光琳「風神雷神図」
俵屋宗達(上)と、尾形光琳(下)の違いをご覧ください。
まず、その色使いが、かなり違いますね。
また、雷神が持つ輪を、宗達は画面からはみ出して描いていますが、光琳は、全部を画面の中に収めています。
そして、少し分かりにくいんですが、雷神の目線が違うんです。
いろいろ違いを、探してみて下さい。
琳派の系図(一部)
さきほど挙げた、琳派の主要人物三名と、それに関係の深い人達の相関図は次の様になりますここに挙げた、琳派の絵師それぞれの、生没年とプロフィールを簡単にまとめました。
本阿弥 光悦 | ほんあみ こうえつ | 1558 – 1637年 | 漆芸、陶芸、茶の湯と多方面に活躍している。特に書は「寛永の三筆」の一人で、光悦流の祖である。琳派の祖といわれる。 |
俵屋 宗達 | たわらや そうたつ | 江戸初期 (生没年不詳) |
独特の構図、技法を使って描いた絵師。工房をかまえていて「伊年」という号を使っていた。 絵画における琳派の祖である。 |
俵屋 宗雪 | たわらや そうせつ | 江戸初期 (生没年不詳) |
宗達の工房の「伊年」を継承している後継者。 |
喜多川 相説 | きたがわ そうせつ | 江戸初期 (生没年不詳) |
宗達、そして宗雪から、工房の「伊年」を継承している後継者。 |
尾形光琳 | おがた こうりん | 1658 – 1716年 | 琳派の代表的画家。絵師であり、工芸家でもある。宗達に私淑し画風を取り入れている。 本阿弥光悦とは親戚筋。 |
尾形 乾山 | おがた けんざん | 1663-1743年 | 尾形光琳の弟、絵師でもあったが、陶工として活躍した人物。兄光琳との共同制作した陶器も多く残る。 |
酒井 抱一 | さかい ほういつ | 1761-1829年 | 絵師、俳人。光琳に私淑し、画風を取り入れている。江戸琳派の祖となる。 |
鈴木 其一 | すずき きいつ | 1796-1858年 | 絵師、酒井抱一の弟子。近代に琳派を伝え、近代日本画のさきがけに位置づけられている。 |
池田 孤邨 | いけだ こそん | 1801-1866年 | 絵師、酒井抱一の弟子、鈴木其一は兄弟子にあたる。 |
酒井 鶯蒲 | さかい ほう | 1808-1841年 | 絵師、酒井抱一の弟子で、後に養子となり後継者となる。 |
村越 其栄 | むらこし きえい | 18080-1867年 | 絵師、鈴木其一の弟子。 |
琳派の絵画の特徴
既に述べたように、琳派は、基本的には、一門ではありません。狩野派や土佐派と違って、何か「○○○派は、こう書かなければいけない」といった約束事があるわけではないので、ほとんどの絵にあてはまるといった際立った特徴はありません。
しかし、他の流派と比較した時には、ほとんど他の流派には見られない特色などがありますので、そのポイントを3つに絞ってご紹介します。
ポイント1 たらしこみ
このたらしこみは、比較的わかりやすい、琳派を代表する技法です。俵屋宗達が、初めて使った技法といわれ、一度、塗った場所に、乾かないうちに色をたらしにじませる技法です。
風神・雷神図屏風の、雲の表現にも使われています。
ふわふわと、風にながされている浮遊感が、たらしこみの技法で、見事に表現がされています。
先ほどの、宗達と光琳の風神雷神図の絵を、もう一度見てみて下さい。
どちらも、たらしこみの技法を使って雲を描いています。
しかし、表現のさせ方は、全く違いますよね。
もう一例、紹介します。
酒井抱一の雪月花図の中の、花の一部拡大したものです。
この木の枝の、緑がかった部分は、たらしこみを使って描かれています。
ポイント2 デザイン性、大胆な構図
まるで近代絵画を思わせるような、大胆なデザインと構図をとっているものが多いのが琳派の特徴のひとつです。また、パターン化したデザインを使ったりもしています。
尾形光琳の燕子花図屏風(かきつばたずびょうぶ)も、屏風の1扇目と2扇目(折り返しの右から1面目と2面目)と、4扇目と5扇目(折り返しの右から4面目と5面目)で、ほぼ同じ燕子花の模様が描かれています。
背景などは書き込まず、燕子花という模様を、いくつかのパターンの組み合わせで貼っていったような、デザイン性が、この時代としては革新的なものだったでしょう。
こういった、光琳のデザイン的なスタイルは、光琳模様 といって、着物や食器など、様々なところで、使われるようになります。
まさに、デザインという言葉が、ぴったりの絵画です。
こういった、デザイン性の強い絵も、後の世代の琳派の人達に引き継がれています。
また、琳派では、描く対象物だけでなく、余白も含めた全体の構図に強い印象を与えられるものが、多いのも特徴です。
酒井抱一の三幅対(三つで一組となる掛け軸)の作品、雪月花などは、各掛け軸の余白のとり方、そして全体での構図が色使いも含めて、印象的に迫ってきますよね。
ポイント3 二曲一双(隻)
屏風絵は、それまでも多くありましたが、二曲一双(にきょくいっそう)といって、二つの面の屏風を二つ対に並べるものが琳派で多く見られます。二曲の屏風に絵を描く事は珍しく、他の流派では、ほとんどみられません。
既に、見ている風神雷神図は、まさに二曲一双です。
また、尾形光琳の、紅白梅図も、二曲一双になります。
では、普通の屏風絵は、どうなのか? というと・・・
六曲(六の面がある)が普通で、単体で屏風を並べる六曲一隻(ろっきょくいっせき)、あるいは、屏風を左右に対で並べる六曲一双(ろっきょくいっそう)です。
屏風について
尾形光琳の燕子花屏風図も、六曲一双(ここでは、右隻のみ表示)です。
注: | もともとこの図の通り、六曲一隻だったが、後に狩野常信が、この絵にあわせた六曲一隻の屏風絵を描き、それを左に置き(左隻)永徳の絵を右側に置き(右隻)として六曲一双となっている。 |
まとめ
琳派(りんぱ)
他の流派との違い私淑(ししゅく)によるつながり
- 俵屋 宗達(たわらや そうたつ) 江戸前期
- 尾形 光琳(おがた こうりん) 江戸中期
- 酒井 抱一(さかい ほういつ) 江戸後期
- たらしこみ
- デザイン性、大胆な構図
- 二曲一双(隻)
あとがき
琳派は、本当に見たときに「ハッ」とさせられる感じがありますよね。色も、ややベタ塗りに近い感じの塗り方をしているのもあり、色のコントラストの印象だけで見させるようなところも、現代アートっぽい雰囲気があります。
また、琳派といっても、それぞれが全くオリジナルの作品を作っているので、とてもおもしろいです。
風神・雷神図屏風を三人が描いていますが、目線を変えたり、光琳は髪の毛の線を得意の波の様な独特のデザイン性で描いたりと個性にあふれています。
また、琳派が分かる事で、狩野派や土佐派の絵も、琳派との対比で、さらに楽しく鑑賞することができます。
知識ばかり持って、先入観を持って絵を見るのは・・・という考えもありますが、現代アートならともかく、やはりこういった歴史の中で生まれた絵は、ある程度、解説がないと本当の良さや、すごさに気づけないことが多いです。
やはり知った知識も踏まえて、自分の感性を総動員して観る。
それが、琳派を初めとする、歴史ある作品の見方だと、私は考えています。
コメント
学校のプロジェクトで日本画の起源を探る必要がありこのサイトにたどり着きました。
琳派(りんぱ)の特徴って何?知って観ると面白くなる!、とってもわかりやすく、面白かったです!
是非情報源が知りたいのですが、参考にされた文献などがあれば教えてください!
もしKEN さんご自身の知識から書かれたものであれば、どのような経歴(美術大学出身、日本画研究家など)をお持ちなのか教えていただければ嬉しいです!
あかりさん
コメントありがとうございます。
参考にした文献は特にはありません。
また、私自身、美術系の学校出身でも、その関係の仕事をしているわけでもないです。
ただ、美術は好きで、美術館には入り浸った時期もありました。ここの内容は、主にその際、パネルに書かれていた内容や、学芸員さんの説明、音声ガイドの内容からの引用です。
主に根津美術館さんからの情報が多いと思います。
返信が大変遅くなってしまい申し訳ありません。
今更ながらですが、参考にしたものは展覧会などの図録や、その時の音声ガイド、学芸員さんによるガイドなどをメモしたものからです。
本で持っているのは、日本絵画入門 安河内眞美(幻冬舎)、日本の美術 田中久佐夫(東京美術)、酒井抱一と江戸琳派の全貌 松尾知子 等ですね。
雑誌なんかも、特集されていると見て、さすがに取っておくと溜まってしまうので、捨てています(笑)
日曜美術館やぶらぶら美術館、美の巨人などもよく観ています。
そんなもろもろの中で記憶やメモなどを頼りに作ってみました。