『天使』の絵画  かわいい系、美しい系、凛々しい系、そして怖い系も…!?


天使が描かれた絵画は、多くの画家が題材としてとりあげ描かれてきています。

特に宗教画が中心の中世やルネサンスなどは、多くの作品で天使が登場しています。

そんな天使の絵画も、改めて『天使』という枠で切り取ると、「かわいい系」だけでなく、とても美しい天使や、凛々しく、神々しい姿で描かれている天使、さらには、ちょっと怖いものまで様々な種類の天使が描かれています。

天使は、実在する人物の肖像画や、イエス・キリストや聖母マリアなど決まったイメージがあるものとは違い、画家がある程度、自由に描きこむことができた存在だったのかもしれません。
そのため、この様に多くのバリエーションに富んだ天使の絵画が生まれたと考えることもできます。

今回は、そんな様々な『天使』の絵画について取り上げたいと思います。

 宗教画(イコン)に見られる『天使』の絵画

まずは、この絵です。

中世のヨーロッパにおいては、この様な絵画が一般的です。
現代の様な一般的にエンジエルと呼んでいる、かわいい子供の天使は存在しません、天使というのは、キリスト教の聖書に出てくる神の使いとしての存在でしかないため、宗教画でしか描かれない時代です。



これらの2枚の天使の絵画は、いずれも大天使ミカエルを描いたものです。

天使は翼をもっている姿で描かれていて、それが一つの天使を指し示すモチーフとして、鑑賞者の誰しもが天使と分かるような絵画となっています。

着ている衣装は当時の貴族の衣装が描かれているものが多く、ミカエルなどは、鎧を着けて剣を持った戦士としての姿で描かれています。

この時代は、イコンといって絵画はあくまで礼拝で拝むための絵画として描かれていた時代です。

神の使いでもある天使は、信仰の対象としてイエス・キリストや聖母マリアと共に、イコンにされていました。
(ちなみに、現在のアイコンという言葉の元が、このイコンです)

この、ちょっと窮屈そうな体の動き、少し小首をかしげたような感じ、これがイコンの絵画の特徴の一つです。

 ルネサンス以降にみられる「かわいい」「美しい」『天使』の絵画

ルネサンスになり、写実的でギリシャ彫刻にあるような肉体的な動きの表現が出てきます。


ルネサンスの巨匠、レオナルド・ダ・ヴィンチと、ダ・ヴィンチの師匠でもある、ヴェロッキオが共作で描いた天使だと言われています。
(手前の横顔の天使が、ダ・ヴィンチ作として伝わっています)



これは、ラファエロが描いた天使です(聖母マリア被昇天を描いた絵画の抜粋)
これらの天使を見ると、現代の天使のイメージとほぼ同じではないでしょうか?

ルネサンスになると、ラファエロやダヴィンチの絵画にあるような、子供や美少年の姿で描かれた、いわゆる「かわいい」「美しい」天使が描かれるようになっていきます。

ルネサンスに復興したギリシャ神話のモチーフで、アフロディテ(ビーナス)と一緒に描かれることの多いエロス(キューピッド)からイメージされていると考えられます。

更に、時代は進んでバロックになり、ルーベンスの絵画などでは、『天使』は画面を構成するデザイン的な要素して描かれているようにも思えます。

この絵画は、バロック絵画の巨匠 ルーベンスの『聖母の被昇天』の上部を抜粋したものですが、昇天していく聖母マリアを囲み、赤ん坊の様な天使から、子供、そして少年の天使へと効果的に、取り囲ませることで、聖母マリアが特別な存在であることの神々しさ、そして、上昇していくという動きが天使を通しても感じることが出来ます。

天使が後に、デザイン的に使用されるルーツは、このあたりにあるのではないかと思われてなりません。


こちらも、バロックの画家 グイド・レーニの、大天使ミカエルの姿です。勇ましい姿勢体つきとは違い、顔は女性の様な美しさで描かれています。

更に…


バロックの後期の画家、ルカ・ジョルダーノの描いた、大天使ミカエルです。
顔や腕、指先など、まるで美しい女性の様なポーズで描かれています。
最初に見たイコンに描かれた大天使ミカエルとは、まるで違っていますよね。

そして、いよいよ19世紀に入ります。
フランスアカデミズムの、フランスの巨匠ドミニク・アングルの新古典主義の流れをくむ画家達による、天使の絵画を見ていきましょう。

カバネル作「ヴィーナス誕生」

カバネルの「ヴィーナス誕生」です。
ヴィーナス(アフロディテ)につきものの、キューピッド(エロス)が描かれています。
しかし、ギリシャ神話では、キューピッドは一人のはずですが、ルーヴェンスの絵画にあったような、画面を構成するデザイン的なモチーフとして天使が描かれている流れがあって、ここでも複数の天使をモチーフとして使って、画面を構成しています。

この絵も、やはりキューピッド(エロス)が描かれています。
作者はウィリアム・アドルフ・ブグローという、先ほどのカバネルと同じ時代の画家で、やはりアングルの新古典主義の流れをくむ画家です。
美少女と美少年を足したような、中世的な雰囲気が漂うキューピッドです。

 ちょっと不気味?怖い?不思議な『天使』の絵画

最後は、少し怖い感じの天使です。
『傷ついた天使』という題名がついています。
作者は、19世紀から20世紀にかけて活躍したフィンランドの象徴主義の、ヒューゴ・シンベリです。

目隠しされた天使が、二人の少年に連れられている姿が描かれていますが、この少年たちに連れ去られているのか?それとも、助け出されたのか?よくわからない絵画です。



最後は、有名なゴーギャンの「説教のあとの幻影」(ヤコブと天使の闘い)という名前の不思議な天使の絵です。

題材は、旧約聖書でヤコブが、兄エサウと和解するための途上、夜中に突然何者かに襲われ一晩中格闘していたのが、実は天使ガブリエルで、これに勝利した時に、「今後はイスラエルと名乗るがよい」と祝福されたシーンを描いたものです。
そのシーンを牧師か神父の説教を聞いた後に幻影として現れたということなのですが、なんとも不思議な絵画です。

すでにちょっとシュールレアリスムが入っていますよね。

 あとがき

今回は、天使をテーマにとりあげてみました。
まだまだ、多くの天使があり、堕天使ルシファーなども含めると、様々な表情の天使の絵画があります。

KEN

天使、エンジェルは現代でも、デザイン的なモチーフとしてよく疲れていて、赤ちゃん関連のグッズでは必ずといっていいほど見かけますよね。

ルネサンス、バロックでガラリと印象が変わるのが、とても興味深いですよね。
個人的には、イコンの天使のぎこちなさがかえって新しいような気もして、さらに宗教絵画らしくとても派手で美しい色合いがとても心地よく、最近は好きになりました。

また、機会があれば天使の絵画シリーズ第二弾もやってみたいと思っています。





  

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