早速ですが、オフィーリアという絵画を見てみましょう。
オフィーリアには、何人かの画家さんの作品があるのですが、代表格は断然これです!
どうですか?
とても、印象的で美術館で、このオフィーリアという絵画を見ると、その前で釘付けになる不思議な力があります。
その理由の一つは、この水中で花をつかんでいる、この不可思議な状況と、彼女のなんともいえない、その表情にあると思います。
このオフィーリアとは、いったい誰なのか?
彼女は水に浮いているのか…それとも沈んでいくところ?
この絵画の作者は誰?
気になる絵画は、色々と知りたくなるものです。
今回は、そんなオフィーリアの絵画について、解説していきたいと思います。
ハムレットの恋人
実は、オフィーリアはシェークスピアのあの有名なハムレットに出てくる登場人物でハムレットの恋人なんです。
ハムレットに冷たくされたあげく、父を殺されてしまい、狂乱状態となり、川に身を投げてしまうのです。
そう、先ほどの絵画は、その時の状態が描かれています。
ハムレットは、王であった父の亡霊と出会い、叔父である現在の王クローディアスによって毒殺されたことを知ります。
復讐に燃えるハムレットは、その復讐を達成するために、わざと狂乱したふりをして過ごします。オフィーリアに冷たくあたるのも、その時で、有名な「尼寺へ行け!」という言葉を彼女にはきます。
その後、母の部屋で隠れて聞き耳を立てていた男を、ハムレットはクローディアスと思い込み剣で刺してしまいますが、実はそれは宰相ポローニアスでオフィーリアの父でした。
このことが、オフィーリアを苦しめ、ついには狂乱状態となってしまい、この絵画のシーンへとつながります。
さて、もう一度オフィーリアの絵画を前にして説明したいと思います。
とても美しいですよね。
咲き誇る花もそうですが、衣装もとても立派で素敵なものを着ています。
ここが実はポイントなのですが、当時の女性のドレスは今と違って布の量がとても多いボリュームのあるものでした。
これを着たまま、川や湖に入り水を含むと沈み、その重さでとても浮かびあがれなかったそうです。
そうなんです、この絵はいままさに沈みゆく瞬間のオフィーリアの姿を描いたものなのです。オフィーリアの口はわずかに開いています。
彼女は歌をくちずさんでいるためです。
生命力にあふれたデンマークの自然に囲まれて、川へと沈みゆく命。はかなさだけではない、命の賛歌ともとれるような、複雑な感情が、この絵画から感じとれます。
表情もなんとも言えず、見る人によって印象が様々なものになるのではないでしょうか?
それでは、一体この絵画を描いた人物、そして、この絵のモデルなどについても話していきたいと思います。
ジョン・エヴァレット・ミレイ
作者はジョン・エヴァレット・ミレイ(John Everett Millais)という19世紀のイギリスの画家です。
日本語では、ミレイをミレーと記載されていることもあります。
ミレーというと、この絵の作者を思い起こす方も多いかもしれませんが、これはジャン・フランソワ・ミレー(Jean-François Millet)でフランスの画家で別人です。
ジョン・エヴァレット・ミレイは、ラファエル前派という、革新的な絵画を目指した若者達のメンバーの一人で、メンバーの中でもずば抜けて絵が上手かった人です。
1848年 ロイヤルアカデミー付属の美術学校の学生だったダンテ・ガブリエル・ロセッティウィリアム・ホルマン・ハントジョン・エヴァレット・ミレイらによって立ち上げられる(正式には、ラファエル前派兄弟団)
イタリア・ルネッサンスの巨匠ラファエロの絵が模倣・理想とされた古典主義に対し、ラファエロより前の時代の絵画に立ち戻るべきだという考えを持った(だから前派)
「自然をありのままに描く」という、当時の偉大な評論家のジョン・ラスキンの絵画に対する考えをモットーに新しい画風を求めて活動した。
自然のままにというのを忠実に守ったミレイは、川や咲く花々も忠実に描いたと思われます(実際に置かれている花は季節ばらばら
また、オフィーリアを描くのに実際にモデルを見て描いています。
そのあたりを次に掘り下げていきましょう、この絵画がよりぐっと身近になります。
オフィーリアのモデル(エリザベス・シダル)
ラファエル前派のミューズとも言える、エリザベス・シダル(通称リジー)
実は仲間のロセッティの彼女
(後にロセッティの最初の奥さんに)
お湯を張ったバスタブに、ドレスを着せた彼女を入れて描いたというもの、自然に忠実に描く事にこだわったミレイのこと、さぞや時間がかかったものと想像できます。
何度となく水風呂に入れられた彼女は、風邪を引き、こじらせてしまったとか…
もしかしたら、オフィーリアの表情を再現させるための狙いだったのかもしれません…
この絵画か描かれた後の話になりますが、実は、エリザベス・シダルとロセッティの結婚はうまくいきません。ロセッティは別の女性と関係を持ってしまいます。
絶望した彼女は、心労が重なり流産してしまい、そして、自らの命を絶ってしまうのです。
悲しい話ですが、彼女の数奇な運命と、オフィーリアが重なって見えてくるのです。
花言葉
今まで、あまり花言葉には興味が無かったのですが、オフィーリアの絵画に登場する花々にどんな花があり、またその意味するところが気になって調べてみました。
花 | 花言葉 |
スミレ | 誠実・謙虚・貞節・愛 |
デイジー | 純潔・無邪気 |
パンジー | 物思い・私を思って |
スイセン | 私のもとへ帰って |
ワスレナグサ | 私を忘れないで |
もちろん、これ以外にも足の方に薔薇などが描かれています。
ミレイは、自然をありのまま描くということから、実際に小川を4か月間もかけて写生しています。
画面に散らばめられている花々も実物を見て描いているようですが、研究者によると、花の季節が一致しないものあるようで、小川の写生時期と同じ時期に全てが描かれているわけではないのだとか。
花々の、その全てにメッセージ性があるかといえば深読みが過ぎるのかもしれませんが、これらの花言葉を噛みしめると、よりこの絵の切なさや高い文学性が感じられます。
あとがき
ラファエル前派の絵画の多くは、イギリス ロンドンのテート・ブリテンというテムズ川沿いの美術館にあります。
このオフィーリアも、テートブリテンにあります。
過去に、2回程 テートブリテンに行く機会があったのですが、どちらともオフィーリアには出会えずでした(泣)
なにせ人気の絵画なので、世界中から貸し出しの依頼があるようです。結局、見れたのは日本で、その一度きりです。
この絵を前にした時の衝撃は忘れませんね。
そういえば、テートブリテンに行った、もう一つの理由はウィリアム・ターナーの『嵐』という絵画を見たかったのですが、こちらも貸し出し中でした。こちらは未だに本物を見れていません(笑)
機会があれば、ターナーの絵も紹介したいものです。
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